こんにちは、経営の違和感や迷いを解決する、エグゼクティブコーチの野中(のなさん)です。今回の「トレンド予測インタビュー」企画は、AI時代のシステム開発をテーマにお届けします。AI技術の進歩によって、システム開発業界は根本的な変革期を迎えています。従来の人月ビジネスモデルから価値ベースの開発へ、分業体制から一人で全工程を担う開発者へ。しかし多くの経営者は、この変化の本質を理解できずにいるのが現状です。「AIを使えば早くなる」というぼんやりとした理解はあっても、実際にどの程度の変化が起きているのか、自社のエンジニアが本当にAIを活用できているのか、外注先は適切なレベルにあるのか——判断基準を持たない経営者がほとんどです。今回お話を伺ったのは、株式会社Liac代表取締役として、AI駆動開発で従来の1.5倍〜5倍のスピードを実現し、同業の開発会社やスタートアップ企業にAIコンサルティングを提供する上山良大さん。システム開発の最前線でAI活用を実践する上山さんが描く、経営者が知るべきAI時代のシステム開発とは?読み手の方には「システム開発・内製・DX推進の新常識」「AI時代に遅れる企業と進む企業の違い」という実用的な判断基準を提供できれば幸いです。この対談でわかること✅ システム開発で本格的にAI活用できている企業は2割程度という業界の現実✅ AI駆動開発により、1.5倍から5倍のスピードアップを実現する全工程最適化✅ 従来の分業体制から一人完結型開発への構造変化とその意味✅ 経営者が陥りがちなシステム発注の時代遅れな常識と新基準✅ 社内エンジニアのAI活用度を正しく評価する具体的なチェックポイント✅ スタートアップと中堅企業で異なる内製化vs外注の判断基準✅ AI時代の業務効率化で見落としがちな10分の1コスト実現の可能性✅ 経営者自身がAI活用スキルを身につける必要性と実践的アドバイス第6回ゲスト:上山良大さん株式会社Liac 代表取締役/上山良大(うえやま りょうだい)システム受託開発とAIコンサルティングを主力事業とする。AI駆動開発により、従来の開発スピードを1.5倍〜5倍にする独自手法を確立。要件定義からコーディング、テストまでの全工程でAIを活用し、業界でも先進的な開発体制を構築している。同業の開発会社やスタートアップ企業、中小企業に対してAI活用のナレッジを共有するコンサルティング事業も展開。スリーセンテンス要約システム開発業界では、AI活用により全工程から最適化できている企業とそうでない企業の生産性格差が3倍以上に拡大しており、本格的にAI活用できているのは2割程度に留まっている。AI時代の開発は従来の分業体制から一人で全工程を担う構造に変化し、スタートアップは内製化、中堅企業はアドバイザー付き内製化が有効な戦略となっている。経営者には「AIツールの部分活用」から「全工程最適化による生産性革命」への認識転換と、社内業務の棚卸しを通じた抜本的効率化への投資判断が求められている。システム開発業界の現状とAI活用格差AIを本格活用できている企業は2割程度━━━━(のなさん)まず、現在のシステム開発業界の状況について教えてください。AI活用はどの程度進んでいるのでしょうか?上山さん: さすがに開発会社でAIを全く触っていない会社はほとんどなくなってきましたが、本格的にAI活用できているのは体感で2割程度だと思います。やはり大きい会社になればなるほど、キャッチアップに時間がかかったり、各エンジニアがバラバラのツールを使っていたりで、「AIツールを使ってちょっと効率化する」の域を超えていない会社が多いです。体感では1.2倍から1.5倍程度の効率化に留まっているのではないでしょうか。一方、相場と比較して1.5倍から5倍のスピードで納品まで持っていけています。特にこの2024年から2025年の半年から1年で、特に大きな進化を感じていますね。全工程最適化による圧倒的な生産性向上━━━━(のなさん)「全工程でのAI活用」とは具体的にどのようなことでしょうか?上山さん: 多くの企業は、コーディングでAIと一緒に開発する「ペアプログラミング」程度で終わっています。しかし現在は、コードを書くのはもうAIの仕事で、そのチェック・レビューや、AIが働きやすい環境作りがエンジニアの仕事になってきています。さらに重要なのは、AIにカスタム指示を追加できることです。例えばChatGPTでも、組織としてコーディング規約やこれまでの失敗事例を詰め込んでいくことで、専用AIがどんどん賢くなっていきます。加えて、AIにテストコードも書いてもらって品質担保できる体制を作ったり、ブラウザをAIに自動操作してもらってチェックを行うなど、ほぼ全工程でAIを活用できるようになっています。ほとんどの会社はそこまでできていません。AI登場前後のシステム開発の構造変化分業体制から一人完結型への転換━━━━(のなさん)AI登場前のシステム開発はどのような状況だったのでしょうか?上山さん: AI登場前は、大きなプロジェクトになればなるほど、納期が短いほど、人を投入するしか選択肢がありませんでした。フロントエンド、バックエンド、インフラ、デザインなど、各分野の担当者が分かれており、分業体制が基本でした。その分、人数も必要でしたし、コミュニケーションコストや工数もかかっていました。1人がその表側も裏側もデザインもできた方が、コミュニケーションコストが減ったり、誰かの作業を待って中断することもなかったりするので効率的なのは分かっていましたが、そういう人材は少なく、引っ張りだこで確保が困難でした。現在は一人でほぼ全工程をやることが現実的にできるようになってきています。さすがに1人だけに任せるわけではなく、もう1人がしっかりチェックするオブザーバー的な立ち位置は置いていますが、大幅に人数を減らしてスピードアップすることが可能です。発注側の認識ギャップとその背景━━━━(のなさん)経営者の方で、システム開発の常識が古いと感じるケースはありますか?上山さん: そもそもシステム開発を発注したことがない方や、過去の発注経験にとらわれている方は多いです。これまでの知識から「このくらいのシステムなら半年から1年かかるだろう」「予算もそれなりに必要だろう」という前提でご相談いただくのですが、実際には3ヶ月でできることもあります。逆のパターンもあって、非常にキャッチアップされている方でも実際に開発を触り切れていないと、「AIを使ったら1〜2週間で終わるんじゃないの?」という過度な期待を持たれることもあります。現状のスピード感とのギャップを丁寧にお話しさせていただいています。内製化vs外注の新しい判断基準スタートアップには内製化を推奨する理由━━━━(のなさん)経営者は、社内開発と外注、どちらにこだわるべきでしょうか?上山さん: スタートアップ企業であれば、内製化した方がいいと思っています。弊社も実際にスタートアップから開発を受注することはありますが、やはり一番やりたいことや気持ちを持っているのは代表や役員レベルですし、事業の解像度も高いのはその方たちです。そういう人たちが小回りを利かせて、すぐにプロダクトを修正したり調整できるのが望ましいのではないでしょうか。従来であれば、内製化したいと思ってもプログラミング学習が困難だったのですが、AI時代においては、ポイントさえ押さえればそこそこ素早くプロトタイプを作成できるようになってきています。現実的には、顧問やアドバイザーなどのサポートを受けながら内製化を進める体制が望ましいと思います。もし外注するとしても、少しでも分かっていれば「本当にこんな時間がかかるの?」という判断もできますし、外注先の動きが悪ければ自分でやってしまうという選択肢も取れます。スピード感が命だと思っているので、より一層そう感じますね。中堅企業のアドバイザー型内製化戦略━━━━(のなさん)社員数100名前後の中堅企業はいかがでしょうか?上山さん: エンジニアを抱えていたり、システム部門がある規模であれば、スタートアップと同様に、完全内製化はいきなり難しいとしても、アドバイザー的な立ち位置を入れて内製化がいいと思います。内製化することのメリットは計り知れないです。特に1回今のAI時代の開発を体験して、どこまでできるかを把握できていれば、今後の開発やDXの知見にも活きてきます。過去も現在も、大きな会社になってくると「とりあえず外注しちゃおう」という文化があったと思います。これまでも内製化しようと思ったらできたとは思いますが、昔は今ほどメリットが大きくなかったし、難易度も高かった。AIのおかげで、その両方が解決されるようになってきています。経営者が見落としがちなAI活用のポイント社内エンジニアのAI活用度を見極める方法━━━━(のなさん)経営者が社内エンジニアのAI活用レベルを判断するには、どうすればよいでしょうか?上山さん: やはりAI開発が進んでいる会社やAIコンサルをしてくれる人と接触した方が、「社内のエンジニアはここまでできるんだ」という発見は絶対あると思います。最近お話を聞かせていただく中小企業の経営者の方からは、「大部分の社員がそこまでやる気がない」というお話を一部ですが伺います。つまり、今の業務をしていれば普通にお金が入ってくるので、プライベートの時間を使ってAIをキャッチアップしようという方はそれほど多くないということです。一方で、リーダー格の方たちは非常に優秀で、キャッチアップしようと思えばできる能力もあるし、経営目線も持っていらっしゃるのですが、その人に仕事が集まってしまって今の作業でいっぱいいっぱい、という状況もよく聞きます。経営者自身のAI活用の重要性━━━━(のなさん)経営者自身のAI活用についてはいかがでしょうか?上山さん: 経営者の方は何かしらAIの話題には触れているのかなという印象はありますが、現場から長く離れて社長業に専念されている方などは、それほど使えていないのではないかという温度感で発言される方もそれなりにいらっしゃいます。そういった場合には、その会社の技術リーダーの方をお繋ぎいただいて、弊社の方で現状を把握させていただくことが多いです。社長さん自身が詳しくない現状で発注いただくのも難しいですし、弊社としても本当にお力添えできるかが分からないところもあるので、しっかりと分かっている方から現状ヒアリングさせていただくことを徹底しています。AI時代の業務効率化と新しい可能性BPO業務のAI置き換えによる10分の1コスト実現━━━━(のなさん)システム開発以外の業務効率化やDXについてはいかがでしょうか?上山さん: 特に業務効率化系で、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)している業務については、正直大部分がもうAIのエージェントでできるようになっています。データをこちらからこちらにコピーして抽出するとか、会社名と代表取締役名さえ分かっていれば、そういった情報のリストをパッと取ってくることも、1件あたり数円ぐらいでできたりします。BPOの会社にお願いしていると数十円かかったり、時間がかかったりしますが、結構できることは増えています。本当にもう少し先の未来になれば、非エンジニアの方でも社内の簡単なシステムであれば作れる時代になると思います。セキュリティなど細かいところを詰めると難しいところはありますが、社内のちょっとしたツールであれば、「これちょっと面倒くさいからツール作ろうぜ」みたいな時代になるでしょう。社内Excelマスターの進化系として、もう少し最適化してシステムを組んだり、社内のツール連携ぐらいであれば、普通の人でもできるようになるかなと思います。定期業務の見直しによる劇的な効率化━━━━(のなさん)経営者が今すぐ取り組めることはありますか?上山さん: まずはAIを触ってみることですね。特に無料版ではなく有料版を使ってみることをおすすめします。ChatGPTなりGeminiなり、Claude、Perplexityなど、一度触ってみると「今ここまでできるんだ」というところが見えてくると思います。それとDXという文脈で言うと、社内の業務を棚卸しすることがめちゃくちゃ大事だと思っています。それ次第では1からシステムを作る場合もあれば、そこまで作らずともツール連携だけでできることも全然あったりします。特に、この2〜3年同じことをやっていたり、何か定期的にやっている業務があったら絶対変えられるはずです。そういうものを見つけて、専門家に相談してみることをおすすめします。AI未来予測シナリオの専門家評価━━━━(のなさん)AIが提示した未来予測について、専門家の視点から評価をお聞かせください。シナリオ1:社内AI格差の企業業績直結━━━━(のなさん)まず「AI理解度による企業生存格差」というシナリオです。これは発注・内製・DX・AI活用すべてで正しい判断ができる経営者と、従来思考で判断ミスを重ねる経営者の差が決定的になり、システム戦略の理解がない経営者の会社が次々と競争力を失うという予測です。いかがでしょうか?上山さん: 戦略判断の二極化については、その通りだと思います。知識があるから正しい判断ができるというよりは、AIを活用できるのであればより正しい情報を収集できるので、確かにそうだと思います。一方で、Web上にある情報だと限定的なので、それ以上に1次情報を取れる会社、そこで意思決定する会社は強いのかなという気持ちもあります。情報収集力が広がり、情報活用力もAIで底上げされるけれど、1次情報や実践知との付き合いは依然として重要だということですね。シナリオ2:社内AI格差の企業業績直結━━━━(のなさん)次に「社内AI格差が企業業績に直結する」というシナリオです。AI活用できる社員とできない社員の生産性差が10倍以上となり、従業員のAI教育が企業の命運を分ける。AI活用企業は同じ成果を10分の1のコストで実現し、従来手法に固執する企業は競争から脱落するという予測はいかがでしょうか?上山さん: その通りだと思います。シンプルにAI活用できる企業とそうでない企業で言うと、本当に10分の1のコストとか全然あり得ると思います。人で何とかやっていた会社とAIと一緒に爆速で進む会社だと、進化のスピードも全然違いますよね。そこで浮いた金額で別の投資もできるので、もう本当に格差は広まっていく一方だと思います。AIが出てきて2年半ぐらいですが、もっとこの格差は広がっていくでしょう。シナリオ3:経営者AI直接活用の時代━━━━(のなさん)最後に「経営者自身がAIを直接活用する時代」というシナリオです。経営者自身がAIツールを使って業務改善・システム構築・DX推進を直接実行し、外部依存から完全脱却する。「専門家に任せる」経営スタイルが通用しなくなり、経営者のAI活用スキルが企業価値を直接左右するという予測についてはいかがでしょうか?上山さん: 経営者だけでシステム開発からマーケティングまで、一部外部の力も借りながらですが、大部分をAIでまかなうことは現実的に可能だと思います。スタートアップや1人社長などは、時代的にかなりの追い風ではないでしょうか。まとめ:AI時代のシステム戦略で成功する経営者の条件今回の対談では、AI時代のシステム戦略について、多角的な視点からの洞察を得ることができました。重要なポイント:AI活用格差の現実: 本格的にAI活用できている開発会社は2割程度で、全工程最適化により3〜5倍の生産性差が生まれている構造的変化: 分業体制から一人完結型開発への転換により、コミュニケーションコストが劇的に削減内製化の新常識: スタートアップは内製化、中堅企業はアドバイザー付き内製化が最適解経営者の認識転換: 「AIツールの部分活用」から「全工程最適化による生産性革命」への理解が必要業務効率化の可能性: BPO業務の大部分がAI置き換え可能で、10分の1コストでの実現が現実的未来への備え: 定期業務の棚卸しと専門家への相談により、劇的な効率化が実現可能経営者にとって重要なのは、AIを単なる効率化ツールとして捉えるのではなく、事業構造そのものを変革する戦略的投資として位置づけることです。社内エンジニアのAI活用度を正しく評価し、適切な投資判断を行い、長期的な競争優位の源泉を構築していく視点が求められています。┌───────────────────┐ \この記事を読んだ方におすすめ/ 🗣️ 経営を俯瞰して、軌道修正したい方 →コーチング体験セッションに申し込む 📚 その他のトレンド予測を見たい方 →『トレンド予測一覧』をチェック 💌 最新事例や記事を受け取りたい方 →メルマガに登録する└───────────────────┘参考リンク株式会社Liac上山さんのXインタビューの振り返り━━━━(のなさん)今日のインタビューを通じて、どのような気づきがありましたか?上山さん: 頭の整理になったと思います。やっぱり話すことで、普段意識していない部分まで言語化できました。特に、経営者文脈で語ることはあまりないので、目線を落として分かりやすく説明する練習にもなりました。今やっている事業の営業トークも改善できそうだと思いましたし、「AIってすごいよね、どんなことができるの?」という質問にも、もっと具体的に話せるようになった気がします。━━━━(のなさん)このような対話の価値はどう感じられましたか?上山さん: なかなかこういった機会をいただかないと言語化するということがないので、とても貴重な時間をいただけて、ありがたいと思っています。野中さんの質問によって、自分がずっとやってきたシステム開発という仕事について改めて理解を深めることができました。P.S.野中祥平あとがき今回のインタビューで最も印象的だったのは、AI活用における「ちょっと効率化する1.2倍の世界」と「全工程で最適化する3〜5倍の世界」の圧倒的な差でした。私自身、技術系の話題は得意ではないのですが、それでもAIを使うことで情報収集と情報活用の範囲は確実に広がっています。システム領域では、その差はさらに大きく、正しい実践知を持っている専門家にアドバイザーとして入ってもらわないと危険なレベルまで格差が広がっていると感じました。特に印象に残ったのは、上山さんの「全工程最適化」という視点です。単にAIツールを使うだけでなく、要件定義からテスト、システム公開(リリース)までの全工程でAIを最適活用する設計思想。これは、経営における戦略設計と本質的には同じで、部分最適ではなく全体最適を追求する思考の重要性を改めて認識しました。また、「社内の業務を棚卸しすることがめちゃくちゃ大事」という指摘も的確でした。2〜3年同じことをやっている定期業務は絶対に変えられるはずだという言葉には、AI時代の可能性と、それを活用しない企業の危機感の両方が込められていると感じます。システムリテラシーの低い経営者ほど、こうした専門家との対話を通じて現状を正しく把握し、投資判断の精度を高める必要があります。社内開発だろうと社外開発だろうと、AI視点で最適化できているかを一度見てもらうメリットは計り知れないでしょう。直近2024年から2025年の半年から1年の変化がこれほど大きいということは、この先の変化はさらに加速することが予想されます。経営者には、AIを単なる効率化ツールとして捉えるのではなく、事業構造そのものを変革する戦略的投資として位置づける視点の転換が求められています。関連記事未来予測インタビューシリーズ人材採用業界のトレンド予測|人材不足×AI時代に戦略はどう変わる?中島佑悟氏インタビューSEO業界のトレンド予測|AI時代の検索エンジン対策はどう変わる?鳥越凌氏インタビューオフライン広告業界のトレンド予測|GAFAがいない領域でブランド資産を築く戦略【土井健氏インタビュー】