こんにちは、エグゼクティブコーチの、野中(のなさん)です。今回は、「トレンド予測インタビュー」企画の第4弾です。「退職代行業界」をテーマに未来予測インタビュー記事をお届けします。「退職代行なんて甘えだ」「自分で退職も言えないなんて」といった批判的な声がSNS上で飛び交う一方で、利用者は急増し続けている退職代行サービス。この新しいサービスは、働く人の権利意識と企業の在り方を根本から変える可能性を秘めています。今回お話を伺ったのは、法律の専門知識を活かして退職代行サービスを展開する株式会社ベルクライン代表の小山誉彦さん。YouTuberヒカルさんとのコラボ動画で「退職王子」として注目を集める小山さんが描く、退職代行が当たり前になった未来の社会とは?読み手の方には「退職代行の本質はそこだったのか」「未来の働き方がこう変わっていくのか」という新しい視点を提供できれば幸いです。この対談でわかること✅ 退職代行が2017年開始から2024年に急成長した背景✅ 「やばい会社から逃げる手段」から「便利な選択肢」への価値観変化✅ 労働者の権利意識向上が従業員ファースト経営を促進する理由✅ 退職代行から退職エージェントへのサービス進化の方向性✅ 2030年に退職代行が完全に社会定着している予測とは?第3回のゲスト:小山 誉彦さん株式会社ベルクライン代表/退職王子 小山誉彦さん(こやま たかひこ)東京都品川区出身。15歳で社会人となり建設業界で職人として4年間従事した後、22歳から営業の道に進み、入社したすべての会社でNo.1の営業成績を継続する稀有な実績を持つ。法律事務所向けサービス会社で営業責任者として4年間従事し、2019年に株式会社ベルクラインを創業。「世の中から法律問題で損をする人をなくす」という企業理念のもと、弁護士検索ポータルサイト「弁護士ほっとライン」や「刑事事件相談弁護士ほっとライン」を立ち上げ、その後「退職代行ほっとライン」を展開。YouTuberヒカルさんとのコラボ動画をきっかけに「退職王子」の肩書きを確立し、退職代行業界を変えていく人として積極的に発信を続けている。営業一筋のキャリアから培った顧客理解力と、時代の変化を敏感に察知する市場洞察力で、この新しい業界をリードする経営者である。スリーセンテンス要約退職代行は「やばい会社から逃げるための最後の手段」から「家事代行やUberEatsのような当たり前の選択肢」へと変化していく。この変化により、労働者の権利意識が向上し、会社側も従業員ファーストの経営が当たり前になり、結果的に健全な労働環境が広がっていく。退職代行業者は単なる「代行」から「退職エージェント」へと進化し、企業に本音の退職理由をフィードバックして組織改善に貢献する存在になっていく。退職代行サービスを始めた経緯と市場背景━━━━(のなさん) まず、退職代行サービスを本格的に始められたのはいつ頃からでしょうか?小山さん: 本格的にやり始めたのは今年1月からです。それまでも去年の夏頃からサービス自体は提供していたんですが、様子見の状態でした。露出もほとんどしていなかったですね。━━━━(のなさん) 退職代行という分野に注目されたきっかけは何だったのでしょうか?小山さん: 実は弊社のメイン事業は「弁護士ほっとライン」という、弁護士に相談したい人と弁護士をつなぐプラットフォームなんです。「世の中から法律問題で損をする人をなくしたい」という企業理念でやっています。例えば交通事故の被害者が保険会社から提示される慰謝料は、実は非常に安いんです。保険会社基準なので。でも弁護士に依頼すれば弁護士基準になって、慰謝料が大幅に増額されます。こういうことを知らない人が多くて、結果的に損をしてしまう。退職代行も同じなんです。退職したいけどできない、自分の権利があるのに会社がその権利を守ってくれない。労働者の権利を知らなくて損をしている人を、直接助けてあげられるサービスなんです。━━━━(のなさん) 弁護士ほっとラインは弁護士を探せるプラットフォームを運営するだけでしたが、退職代行は直接受任できるということですね。小山さん: そうです。ただ、最初は非弁行為に当たるんじゃないかと心配していました。でも顧問弁護士に相談したり調べたりして、ルールの範囲内でできることが分かったので始めました。退職代行業界の成り立ちと急成長の要因━━━━(のなさん) そもそも退職代行サービスはいつ頃から存在するサービスなんでしょうか?小山さん: 2017年に初めて退職代行をやった会社があります。ただ、本格的に認知されたのは2024年のゴールデンウィーク前後にテレビで取り上げられてからです。それまでは知っている人はほとんどいませんでした。興味深いのは、退職代行は日本と韓国ぐらいにしかないサービスなんです。海外では「退職を自分で言わないのはなんで?」となってしまう。自己主張が強いし、裁判もよくやるので、自分の権利は自分で主張するのが当たり前なんです。━━━━(のなさん) 日本ならではのサービスなんですね。小山さん: そうです。日本では退職代行がなかった時代は、退職したいけどできない人は泣き寝入りするしかありませんでした。無理して働き続けるか、うつや体調不良になってしまうかです。去年2024年から急激に認知が広がったのは、SNSで発信を始めた会社があったからです。2024年のゴールデンウィーク前後にメディアがそれを取り上げて、一気に話題になりました。退職代行業界の現在の構造と課題弁護士系・労働組合系・一般企業の3つの業態━━━━(のなさん) 退職代行サービスを提供している会社の母体はどのようなものが多いのでしょうか?小山さん: 大きく分けて弁護士系、労働組合系、一般企業の3つです。弁護士系が最も信頼性が高く、労働組合系は会社との交渉ができる、一般企業は価格が安いという特徴があります。弊社の場合は一般企業ですが、弁護士向けのサービスをやっている関係で全国の弁護士とのネットワークがあります。何かあった時にお近くの弁護士を紹介できるというのが強みです。そもそも法律知識も他社より圧倒的にあります。実は今、一部の退職代行の会社が、法律的に間違った情報を発信してしまっているケースがあるんです。例えば「給与明細は会社が労働者に渡す義務はない」と言っていますが、これは完全に間違いです。労働基準法では義務はないですが、所得税法では義務があるので、結果的に違反になります。参入障壁が低い業態でもあることと、法律の専門家がやっていないケースがあるために起きる、業界課題の1つだと思います。他社との差別化と依頼者重視のスタンス━━━━(のなさん) 他社との違いやスタンスの違いはありますか?小山さん: 大きな違いは、依頼者に100%寄り添うスタンスです。退職代行事業を展開する会社の中には、「中立の立場」を謳っている会社もいますが、そこには違和感があります。依頼者からサービス料をもらってやっているんだから、100%依頼者に寄り添わないといけないと弊社は考えています。そういった中立の立場をとる会社の中には、企業向けにもサービス展開していて、退職代行を使った人のデータを企業に売って「こういう人が退職代行を使うから、そこを直せば離職率が減りますよ」というコンサルをやっているケースもあります。だから中立と言わざるを得ないんでしょうが、私はそのスタンスには疑問を感じます。退職代行の未来予測:当たり前のサービスへの変化家事代行・UberEatsと同じ価値観の変化━━━━(のなさん) 退職代行サービスの未来についてはどのような予測をお持ちですか?小山さん: 転職する時に転職エージェントを使うのと同じように、退職する時は退職代行を使うのが当たり前になると思います。これは家事代行と同じ流れです。昔は姑さんから「家事代行なんて甘えだ」「家事をやることが旦那さんに対する愛情だ」と言われていました。でも今では便利なサービスとして認められています。退職代行も同じです。ブラック企業でどうしても辞められない人だけが使うものから、「2万円ぐらい払って手間やストレスを省ける」という価値観で使う人が増えてくる。UberEatsと同じ感覚です。自分で買いに行けばいいのに配送料払ってでも利用するのかって言う人もいるし、お金を払ってでも手間を省きたい人もいる。価値観の違いなんです。経営者側の意識変化と受け入れの流れ━━━━(のなさん) 経営者側の受け止め方も変わってくるということでしょうか?小山さん: そうです。今は経営者や役員の人たちが「退職代行を使われた」ことを認めたくない、拒否反応を示している状況ですが、これも変わります。どんなにまともな会社でも使う人は使うんです。それがもう普通になる。退職代行を否定するということは、自分の会社が若干ブラック企業だと言っているのと一緒なんです。むしろそれを受け入れている会社の方が器が大きいと見られるようになります。退職代行が促進する従業員ファースト経営への転換労働者の権利意識向上が企業文化を変える━━━━(のなさん) 退職代行が広がることで、どのような社会になっていくと予測されますか?小山さん: 会社が変わると思います。本当に従業員ファーストなあり方になるんじゃないでしょうか。退職代行が広がることで、退職する権利があるということをみんなが知るようになります。そうすると、その会社にいなきゃいけないという固定概念がなくなる。会社は従業員のこと本当の意味で大切にしないと、みんな辞めちゃうんです。「従業員ファースト」という言い方自体、従業員ファーストしている会社が少ないからそういう言い方をしているんです。これは「イクメン」と同じです。育児をやるのが当たり前なのに、お父さんが育児をやると特別に「イクメン」と呼ばれている。従業員ファーストも当たり前になっていくはずです。━━━━(のなさん) 退職代行が抑止力になるということですね。小山さん: そうです。今は労働者の方が立場が低くて、会社がコマのように使って、いらなくなったらいつ辞めてもいいですというスタンスが多い。だからみんな給料も上がらないし、仕事に対するモチベーションも上がらない。でも退職代行があることで、労働者の権利が守られるようになり、会社側も従業員を大切にしなければならないという意識に変わっていきます。退職代行から退職エージェントへのサービス進化企業改善に貢献する退職理由フィードバック機能━━━━(のなさん) サービス自体も進化していくのでしょうか?小山さん: 退職代行という名前を変えた方がいいかもしれません。「退職エージェント」とか。代行だと代行して終わりという雰囲気がありますが、エージェントだと間をつないでより良くするという雰囲気があります。実は、退職代行を使わずに辞めた人って、会社に本音を言わずに辞めるケースが多いんです。波風を立てないように「一身上の都合で」とか「実家に帰るから」とか建前の理由を言います。でも退職代行を使ってくれた方が、むしろ退職理由が明白になって、会社の改善につながるんです。私たちも、可能な限り退職理由をちゃんと聞いて、それを会社に伝えるべきだと思っています。━━━━(のなさん) 自分で退職を申し出るよりも、代行会社を経由した方が本音が吸い上げやすいということですね。小山さん: そうです。経営者としても、建前で言われた退職理由をそのまま受け取るしかないから、それ以上の改善のきっかけがつかめません。でも退職代行を通じて本当の理由が分かれば、会社をより良くしていくことができます。退職代行への批判的論調に対する反論「甘え」批判の本質的な問題点━━━━(のなさん) SNS上では「退職代行を使う人はダメだ」という論調も見られますが、どう思われますか?小山さん: 正直、なんで皆様そんな大げさになっているのか理解できないですね。ただ退職することを人に頼んだだけの話で、その人の人格とは全く関係ありません。「退職すらも自分で言えないやつは将来どこ行っても使えない」なんて言っている人もいますが、それは意味が分からない。家事代行やUberEatsに対してそんなことを言っている人は今いないじゃないですか。ただ便利なサービスを使っただけです。副業を推奨している人が退職代行を否定するのもおかしいと思います。副業推奨って「別に会社にいなくてもいいよね」ということじゃないですか。それなのに退職代行は否定するというのは矛盾しています。2030年の退職代行業界完全に社会定着した退職代行サービスの姿━━━━(のなさん) 2030年にはどうなっていると予測されますか?小山さん: 2030年には絶対に退職代行が当たり前になっていると思います。もうあと2、3年ぐらいかなと思うんですが。「退職代行が当たり前」というよりも、「退職したい人はする」「無理してその会社にいなくてもいい」というのが当たり前になる。そのために退職代行が今必要なんです。今は「退職代行を使われないためにどうするか」を考えている経営者も多いですが、それはちょっとずれています。退職代行を使っても使わなくても会社を辞めるという結果は同じなので、矛先を自社に向けて、従業員が働きやすい環境を作ることに集中した方がいいでしょう。今回の未来予測インタビューを振り返って━━━━(のなさん) 今日のインタビューを通じて、どのような気づきがありましたか?小山さん: 思っている以上に、口に出してみたら「退職代行って本当に必要だな」と思いました。普段はあまりここまで従業員ファーストの話につなげて退職代行の話をすることがなかったので。改めて「退職代行」は本当にいいサービスだと思います。自分がやっていることに自信を持てました。野中さんの質問がお上手で、気づいたら語っちゃってました。単純にインタビューというよりも、一緒に研究したいみたいなマインドで深掘りしてくれるから、自分でも普段意識していない部分まで言語化できたんだと思います。━━━━(のなさん) 未来予測を言語化することのメリットはどう感じられましたか?小山さん: 自分でも潜在意識の中にあったけど言語化することで、より具体的な未来が見えました。これからやるべきことも見えましたね。もっと発信していかなきゃいけないなと思いました。結局、発信しないと誰にも伝わらないじゃないですか。僕がただ一人で思っているだけでは意味がない。この考えをもっと広めていこうと思います。特に、事業の拡大フェーズに入ろうとしているタイミングで、自分のビジネスの社会的意義や未来像を整理できたのは大きかったです。自信を持って事業展開していけます。こういう対話って、経営者にとって本当に貴重な時間だと思いました。まとめ:価値観の転換期に立つ退職代行業界今回の対談では、退職代行業界の現状と未来について、従来とは異なる視点からの洞察を得ることができました。重要なポイント:退職代行は「やばい会社から逃げる手段」から「便利な選択肢」へと変化する労働者の権利意識向上により、従業員ファーストの経営が当たり前になる退職代行業者は「代行」から「エージェント」として企業改善に貢献する存在へ現在の批判的論調は本質を捉えていない一時的な反応である2030年頃には完全に社会に定着している経営者にとって重要なのは、退職代行を否定することではなく、従業員が働きやすい環境を作ることに集中することです。退職代行の存在は、むしろ企業が真の意味で従業員ファーストになるためのきっかけとして捉えるべきでしょう。次回の「トレンド予測インタビュー」もお楽しみに!参考リンク退職代行ほっとラインヒカルさんと退職王子「小山さん」とのコラボ動画は以下から!%3Ciframe%20width%3D%22560%22%20height%3D%22315%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FE6Fgh6OmiPg%3Fsi%3DpKT_amYC1v07bJao%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%3B%20web-share%22%20referrerpolicy%3D%22strict-origin-when-cross-origin%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E経営者の組織マネジメントと働き方改革をサポート本インタビューで語られた「従業員ファースト経営」や「労働環境の改善」は、多くの経営者が直面する重要な課題です。エグゼクティブコーチングでは、こうした組織づくりや働き方改革の戦略を経営者と一緒に探究します。エグゼクティブコーチングサービスの詳細を見るP.S.あとがき今回のインタビューで最も印象的だったのは、小山さんが「退職代行」という言葉から「退職エージェント」という概念への転換を語られた部分でした。単なる「代行」ではなく、労働者と企業の間に立って建設的な橋渡しをする「エージェント」という視点は、この業界の未来を考える上で非常に示唆に富んでいます。また、家事代行やUberEatsのように「便利なサービス」として当たり前に使われるようになるという予測も、確かにその通りだなと感じました。新しいサービスが社会に浸透する際の反発と受容のパターンは、どの業界でも似ているものです。経営者としては、退職代行を否定するよりも、なぜ従業員が退職代行を使いたくなるのかという根本的な問題に向き合うことの方が建設的だということも、改めて考えさせられました。「従業員ファースト」が特別なことではなく当たり前になる社会。その実現に向けて、退職代行というサービスが一つの触媒として機能していく。そんな未来が見えてきた興味深いインタビューでした。関連記事未来予測インタビューシリーズ人材ビジネス業界の未来予測|AI時代の転職エージェントはどう変わる?野村真央氏インタビュー 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