こんにちは、エグゼクティブコーチの野中祥平(のなさん)です。今日は、経営者の多くが意外と見落としがちな“前提の疑い方”についてお話ししたいと思います。私たちって「どうすれば売上アップできるか?」という手段の方ばかりに注目しがち。でも実は“そもそもその前提は合っているのか?”を考えた方が、意外とラクに成果が出るケースって多いんですよね。そこでおすすめしたいのが、『「超」入門 失敗の本質』(鈴木博毅 著)。戦争史を題材にしつつ、組織や経営で陥りがちな“前提を疑わない”失敗を解説してくれる一冊です。『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』(鈴木 博毅 著)発売:2012/4/6■この本はどんな本か?ざっくり紹介第二次世界大戦での日本軍の失敗を“現代ビジネスの失敗”に重ね合わせるテーマ原著『失敗の本質』が指摘した「日本軍が精神論に偏り、前提を疑わずに失敗を重ねてしまった」構造を、現代の日本企業に置き換えて解説しています。読みやすさ戦争史の話なので一見硬そうに思えますが、本書はビジネス向けにダイジェストされているので、短時間でポイントを押さえられるのが特徴です。ポイント「日本軍が陥った失敗パターンは、実は多くの日本企業がいまだに繰り返していないか?」という鋭い問題提起をしてくれるところがポイントです。私自身、最初は“戦史の解説書”くらいの気持ちだったのですが、ページをめくるたび「うわ、これってウチの組織でも起こりそう…」とドキッとする内容ばかり。特に「ダブルループ学習」が鍵だなと痛感したんです。■超重要キーワード「ダブルループ学習」って何?ここが本書のエッセンスであり、私が一番響いた部分でもあります。ダブルループ学習を理解するために、まずは「シングルループ学習」を押さえておくと分かりやすいんですよね。・シングルループ学習とダブルループ学習の違いって?シングルループ学習前提条件や目標は据え置き「どうすればうまくいくか?」を修正するプロセス例:売上が伸びない→営業回数を増やす、コストを削る…など“もっと頑張る”方向へ行きがちダブルループ学習“前提そのもの”を疑う例:売上拡大が停滞→そもそもターゲット顧客やビジネスモデルが合ってないのでは?と根本から再検討抜本的な発想転換が可能なんで大事なの?シングルループだけだと「努力不足」「もっとノルマを増やせ」といった対処しか思いつかない。でもダブルループを意識すると「そもそも違う市場を攻めたほうがいいんじゃないか?」など、ガラッと戦略を変えられるというわけです。日本軍が“精神論偏重”で苦戦したのに対し、アメリカ軍が“前提を疑う仕組み”で勝ちを手にした構図が、まさに経営の教訓になっています。・実際の戦争での日米の違いってどんな感じだったの?日本軍:シングルループ学習の典型「精神力があれば勝てる」という根拠薄い前提を疑わない 作戦が失敗すると“もっと特攻を…”“もっと根性を…”となり、同じ失敗を繰り返すアメリカ軍:ダブルループ学習が機能新兵器や戦闘データを分析し、そもそもの戦い方ごと変えていく 結果として物量とテクノロジーを最大限に活かせる体制を整え、日本軍と大きな差が生まれたと言われています。特に、戦闘機を地上ではなく船から飛ばし合う空母線の世界線になった時に、「いかに飛行機をうまく操縦して奇襲をしかけるか」ばかり追求した日本に対して、「いかにセンサーとか使って、相手の位置を早く正確に把握するか」を追求できたことで、全然戦い方が変わっていった、、、みたいな記載がされているのが僕の印象に残っています。ああ、これは現場情報を吸い上げたり、ちゃんと前提を疑って仕組みや構造で負けないようにするのがビジネスでも大事だよなと痛感したのです。この対比を読んでいると、「私たちの会社も、前提を疑わずに頑張り続けてないかな?」とハッとさせられるんです。・ダブルループ学習の視点を経営に取り入れるってどんなイメージ?何をするイメージ?目標そのものを再点検四半期や年度末で振り返るとき、「これまでの目標はまだ有効なの?」「むしろ利益率重視がいいのでは?」と“売上アップ”に固執しすぎないようにする。現場の声を“戦略レベル”に活かす単に「この課題をどう対処するか?」ではなく、「そもそもサービス内容自体を変えるべき?」「どうしたらもっと楽に選ばれる?」「どうしたらお客様との関係を全く別の形にできる?」など、前提を疑う問いに発展させる。現場から離れすぎると、そもそも経営層が現場の違和感に気づけなくなるので、現場の声を吸い上げ続ける仕組みが必要になりますね。“もっと頑張れ”より“仕組みを疑おう”という社風づくりトップダウンで目標を決め、それを下ががむしゃらに実行するだけだと、シングルループに陥りがち。ダブルループを導入するには、「本当にこれでいい?」と根本を疑うことを歓迎する文化が必須です。・ぶっちゃけトップダウンでシングルループで現場情報いかせてない会社多いですよね実際、日本企業の多くは「現場が黙々と頑張る」構造になりがちです。現場がいくら「なんかおかしくない?」と思っても、上層部が方針を変えない結果、精神論や根性論でごまかし続け、ある日大きな失敗を招く…だからこそ、経営層が「うちの目標や戦略は間違ってるかも?」といった声を受け止める体制がすごく大事なんです。そうやって経営者チームと現場が一体となり“ダブルループ”を回せるようになると、一気に組織の空気が変わる。私もまさにそれを体験しました。■ダブルループ学習を取り入れると、停滞感脱却しやすくなる3つの理由って?これは3つにまとめることができると思います。1. 目標やビジネスモデルの陳腐化に早く気づける世の中の変化が激しい中、「昔うまくいったやり方」に固執していると、気づいた頃には手遅れになりがち。ダブルループ的に「このままのモデルでいい?」と問い続ける習慣があると、早期に切り替えや新規市場へのシフトを検討しやすい。2. 現場の情報が経営判断に反映されやすい日本軍の失敗例のように、“司令部と現場が断絶”しているとシングルループに陥りがち。ダブルループ学習を組織に根づかせると、「最前線でどんな問題が起きているか?」をしっかり吸い上げて、戦略(前提)から見直す流れが生まれる。3. “頑張り不足”ではなく“前提を変える”方向に思考を持っていける停滞感がある組織では、「もっと頑張れ!」という精神論に走りがち。ダブルループを意識すると、「そもそも、ここで頑張る必要あるの?」という根本的な疑問が許容される文化が育ち、結果的にラクな勝ち方を見いだしやすくななります。■この本を読んだからこそ、起きた人生の変化とは?私が『失敗の本質』系の書籍を深く読むきっかけは、2020年〜2021年の経営者向け研修でした。そこで『失敗の本質』を題材にディスカッションをする場があり、「日本軍がなぜ前提を疑わずに精神論や努力論で突っ走ってしまったのか?」を他の経営者さんと語り合ったんです。このとき衝撃を受けたのが、「じゃあどうする?」ばかりを問う自分のスタイル。私はずっと「できない理由を考えるより、できる方法を探そう」というHowファーストの信念を大切にしてきました。でも本書から得られた教訓は、「その前に『そもそも何を目指している?』『戦う必要がある?』など、前提や常識自体を疑ってみる視点が必要では?」ということでした。つまり、「もっと頑張る」「もっと熱量を上げる」「もっとノウハウを蓄える」というシングルループ学習だけではなく、「努力しなくても、ラクに勝てる方法はない?」「そもそも戦わずして勝つ道は?」と発想するダブルループ学習が大切なんだ、と目が覚めたんです。軽やかに売上が伸びるサービスづくりへこの気づきから、私自身の経営判断も大きく変わりました。とくに「SNSマーケ支援」のサービスを見直す際は、現場の声を積極的に取り入れることに力を入れました。従来: 「美容ブランドのTwitterマーケ支援に特化して、なんとか会社の土台となる売上を作っている」という立ち上げフェーズの頑張り方でした。もっと営業活動を増やしていこう、アポ件数をとにかく増やしていこうという努力ベースの頑張り方をしようとしていました。その後: 「Twitter+Instagram両方を組み合わせると、『SNSで話題』という評判を作りやすくなる。その評判をもとに、店頭販促と連動するともっと楽に店頭POSが動きやすくなる。」という現場アイデアを拾い、調査データを取り、具体的なサービスを構築していきました。売り物や売り方を見直した上で、セットで営業戦略を見直したことで、リピートにも繋がりやすい顧客との関係構築がしやすくなりました。結果、顧客から「そうそう、こういうSNSの戦略を求めていた!」と評価され、仕事が増え、売上がよりスムーズに伸びました。「努力してガムシャラに売る」だけではなく、「そもそも顧客は何を望んでいる?」「どうすれば、サービスを売りつけるのではなく、本質的な顧客の課題を解決できる?」という問いに向き合ったおかげです。これはまさにダブルループ学習的な発想の恩恵だと思っています。ダブルループ学習の概念を知ってからは、「経営トップが、ガチガチに戦略と計画を定めてトップダウンで下ろす」のではなく、「ある程度の大きな方向性は示しつつも、日々現場で生まれるメンバーの気づきや顧客から得られる情報をもとに、柔軟に発想し、必要とされるサービスをスピーディに形にしていこう」という経営スタイルそのものが変わりました。結果的に、ガチガチ計画スタイルより、ひらめきサクサクスタイルの方が僕の性格にもあっていて、経営が加速しました。■なぜ起業家におすすめなのか?どんな起業家におすすめなのか?1. 戦略が頭打ちになっている起業家・経営者「手を変え品を変えやっているのに、いまいち伸びない…」という場合、実は“前提そのもの”がズレているかもしれません。*「そもそもどんな価値を目指すのか?」や、「その目標は本当に適切か?」*をダブルループ的に問い直すきっかけになるのが本書です。第二次世界大戦の日本軍とアメリカ軍の対比を読むと、自分たちの組織に置き換えて学べる点が多いはず。2. 精神論に頼りがちな組織を脱却したい方日本企業は良くも悪くも“努力や根性”を美徳としてきました。しかし、本書を通じて*「前提を疑う」*考え方に触れると、従来の硬直した文化から一歩抜け出すヒントが見つかります。上からのトップダウン指示が当たり前になっている組織こそ、読んでみる価値大。3. 現場のアイデアをうまく経営に組み込みたいリーダー『失敗の本質』では“司令部と現場の情報断絶”が日本軍の悲劇を加速させたと指摘されています。経営も同じで、現場との乖離を放置していればジリ貧になるリスク大。本書を読むと「どう現場の声を拾い、どう意思決定に活かすか?」というリアルな実例を得られるので、リーダーの視野がぐっと広がるでしょう。■まとめ:ダブルループ学習は、「ルールや前提が変化し、予測不能な時代でも、進化し続ける」ためには必要な知恵!シングルループ学習的なやり方だけでは、どんなに努力しても時代の変化に取り残されがちです。第二次世界大戦の日本軍が“精神論”に依存して失敗を重ねたように、「もっと頑張ろう!」だけで乗り切れない現実に直面している経営者さんは多いのではないでしょうか。そこで有効なのが、ダブルループ学習の視点。「そもそも何を目指すか?」「この常識はまだ通用する?」と前提を疑い始めると、思わぬ打開策が見えてくるものです。『「超」入門 失敗の本質』は、その“前提を疑う”姿勢を習得する絶好の入り口。本書を通じて、あなたの組織でもダブルループ学習を少しずつ取り入れてみませんか?※ちなみに、原著である「失敗の本質」は、普通に戦争に関する記述も多く読みにくい印象の人も多いと思います。解説系のYOUTUBEを見るのもおすすめです。ダブルループ学習付近の背景情報や文脈情報を得られるとより理解が深まると思います!■P.S.じつは、つい最近までこの本の影響を大きく受けていたという事実そのものを忘却していました。しかし、支援する経営者さんのほとんどが「HOWを気にしすぎて、前提を疑えていない」という状態に陥りやすいことに気づき、そういえば自分もそうだったな、、、という気づきを得ました。じゃあなぜ僕は、前提を疑うことが当たり前で、現場情報をもとにひらめきや気づきをサクサクスピーディに形にしていく経営スタイルにシフトできたんだっけ?を考えた時に、そっかこの本を読んでいたことが大きかったんだなと腑に落ちました。それくらい、僕にとって自然体で馴染む考え方で、こっちの考え方でいることが当たり前になっていたということです。ただ、前提を疑うってめっちゃ難しいです。それこそコーチのような存在がいて、色々質問してもらうことで「あれ、そういえばなんでこれにこだわってたんだっけ?」のような客観視ができる人も多いです。現場の気づきを拾い上げるだけではなく、うまく外側の存在に見てもらう、意見をもらうのも大事かと思います。■P.S.S.ロジカル意識して、手段ばかり考えていた時には、「あれ、そもそも間違ってるかも?」のような心の声って無視しがちだと思います。だって、短期的には「とにかく頑張る!」を発動したほうがいいですもんね。それこそ今ひそかにブームなゾス!的な思考でマッチョに行動したほうがいいフェーズの会社や組織も多いです。ですが、やはり時代の変化は早いです。ダブルループ学習の視点があると、自分や現場メンバーの「あれ?」「おかしくない?」といった違和感情報を吸い上げやすくなりますし、経営トップがそういう冷静に前提を疑える目線を持ち続けられるかはかなり影響が大きいです。おすすめ記事【おすすめ本】内省力を高める!『ひとり会議の教科書』で経営者の思考が変わる【おすすめ本】経営の型を掴む!なぜ私は『起業の技術』をすすめるのか?→書籍紹介系の記事は実はけっこう人気なので、読んでみてください。なぜ経営者は『ロジカル思考だけ』だと行き詰まりやすいのか?経営者が自己犠牲マインドを手放した先にある「静かな、るんるんモード」って何?『なぜ私は4年間、コーチングで「遊びの時間」を大切にしているのか ー 経営者の意思決定力を高める意外な習慣』停滞感気味な経営者必見!実は大きな飛躍の前に起こる2つのパターンとは?